日刊ゲンダイ 2010年2月9日
たばこはダメ、酒も禁止の国家管理が加速中  二極化・格差社会の真相

 厚生労働省が職場の原則禁煙化を進めることになったという。そのための労働安全衛生法の改正案を来年の通常国会にも提出する方針と、7日の朝日新聞が報じていた。
 禁煙行政の流行も、ここまで来た。受動喫煙が問題だというなら、分煙の徹底で済む話なのに。
 では喫煙者の人権はどうなる。葉タバコ農家は。もともと戦争未亡人対策として独占的な販売免許は交付された歴史があり、現在も高齢女性が多い街のたばこ屋さんたちは、生活の手段を断たれよう。
 合法的な嗜好品を強権で禁ずる無理無体が、なぜ許されるのか。多数派に縁のなくなった人間など早く死ねという発想がなければ、このような事態はあり得ないはずだ。
 ちなみに私自身はたばこが好きでないので吸わない。自分の都合で発言しているつもりはないので念のため。
 異端を排除してやまない奔流は、いずれ確実に酒へと及ぶ。WHO(世界保健機関)はつい先月、アルコールの広告と販売の規制に乗り出す計画をまとめた。すでに英国では公園や海岸で缶ビールを持っていると警察沙汰になると、やはり朝日の、これは先月末のオピニオン欄でヨーロッパ総局長が書いていた。
 酒の害はたばこより悪い。飲酒者本人の健康を損なって医療費がかさむし、経済社会の生産性を低下させる。暴力や事故の引き金にもなっているではないか−−という理屈は、急増中といわれる“酒を飲まない若者”が全体の多数派を形成し始める頃には、絶対無二の真理ということにされてしまうのではないか。
 一方では納税者番号制度の導入が決定的だとか。政府が予定している社会保障システムや住基ネットとの相乗りが実現すれば、すなわち国民総背番号体制の完成だ。
 息苦しいなんてものではない。監視と管理と生産性向上のためのアメとムチとが日本を支配していく。いずれ消費税の増税に至れば、顧客や取引先との力関係で価格に転嫁できず、自腹を切って納税するしかない中小零細の事業者の多くは自殺に追い込まれるのは必定。
 俺は関係ねえよなどとは無知も甚だしい。自殺しない事業者やその家族、元従業員も大挙して労働市場になだれ込むから、サラリーマンも非正規労働者も共倒れの運命だ。
 沖縄の問題もある。国家や資本の論理だけが優先されて、個々の人間の尊厳が軽視される社会が長続きするわけがない。この国は今、くだらなすぎる結末に向かって、一直線に突き進んでいる。
(隔週月曜掲載)

斉藤貴男(さいとう・たかお)
1958年生まれ。早大卒。イギリス・バーミンガム大学で修士号(国際学MA)取得。日本工業新聞、プレジデント、週刊文春の記者などを経てフリーに。「機会不平等」「『非国民』のすすめ」「安心のファシズム」など著書多数。





かりゆしクラブのトップページに行く