沖縄タイムス 2008年12月10日 朝刊

国連の先住民族権利保護勧告 〈中〉 宮里護佐丸

沖縄の権利を裏付け 抑圧打開へ政府に義務


 今回多くの市民団体の協力で提出されたリポートによって、国連の市民的および政治的権利に対する条約(通称B規約)委員会が、日本政府に対し「琉球民族を国内立法下において先住民と公的に認め、文化遺産や伝統生活様式の保護促進を講ずること」との歴史的勧告を行った。これは国連において、琉球民族が独立した一つの民族として公的に認識された初めてのことと言える。

世界基準での根拠

 さてこの勧告の意味する所だが、もちろん「琉球王国時代の生活に戻れ」と言う事ではない。琉球・沖縄人が自分たちの考える価値観、思想に基づいて生活する権利を有しており、かつそれを実行し実現する権利を有すると言うことである。「基地を受け入れなくても発展を阻害されない」と言うことであり、「基地拒否=補助金なし」か「基地受け入れ=振興策」といった二者択一の選択以外を求めることができる世界基準での根拠となるものである。
 この条約の最初、第一部第一条にはこうある。「(1)すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、この政治的地位を自由に決定しならびにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する。(3)この規約の締約国は、国際連合憲章の規定に従い自決の権利が実現されることを促進し及び自決の権利を尊重する」と。私たち琉球・沖縄人には生まれつき「民族自決権」があり、国連中心主義を国是とし同条約の締約国である日本政府には「人民の自決権を尊重し促進する義務がある」ことが分かる。
 日本政府がやらなければならないことはただ一つ、沖縄の権利を尊重し、かつ実行する手助けをすることで、まちがっても振興策か貧困かを選択させ、琉球・沖縄人同士を対立させることではない。

日米は人権後進国

 また私たちが勘違いしてはいけないのは、今回の人権委員会の勧告は、琉球・沖縄人が国連から日本の先住民としてのお墨付きをもらったわけではないと言うことだ。私たち琉球・沖縄人は国連や国際条約などが規定する前から、当然の権利として民族自決権や幸福追求権など、他の日本人やアメリカ人や世界中の独立国がもっている権利と同等の権利を有している。
 これは先祖代々子々孫々生まれながらに持っている固有の揺るがない権利である。誰かに認めてもらったから発生するものでもなく、誰かにかってに規制されるものでもない。
 私たちは世界の基準は日本やアメリカだと思い込みがちであるが、人権という観点から世界基準で見た場合、国連の各種人権条約委員会の度重なる勧告を見る限りにおいては、日本やアメリカは人権後進国であり、けっして世界のスタンダードとは言い難い。
 私たちは長い間、沖縄の置かれている差別的な現状を、日本政府に陳情したり、アメリカ政府に訴えたりしてきた。しかし、人権後進国である日米両政府は沖縄の置かれている問題を「人権」の視点からとらえる事はなく、沖縄は日本の国益の名の下に不平等と人権の抑圧を受け続けてきた。私たちは自らの現状を変えるために訴え話し合う相手を間違えてきたのではないだろうか。私たちが自らの現状を自らの力で変えるべく共に話し合うべき相手は、世界基準の条約の下にあるのではないか。

新大統領の可能性

 今回の国連の勧告に対し、日本政府は反論をしてくるであろう。しかし琉球・沖縄人が文化的社会的に抑圧されてきた経緯は、歴史的にも日米地位協定の不平等の害悪をまともに受けている現状やほとんどの県民が反対する北部への基地移設をはじめとした、過重な基地負担などの現状を見ても明らかであり、委員会の勧告が覆ることはありえないであろう。
 繰り返すが、「人権」という観点から琉球処分以降続く現代沖縄の状況を人権の世界基準からみた場合、その現状はあからさまに不公平・不平等で、その不平等な状態に置かれている民族の権利を回復するには、抑圧されている民族が抑圧者の都合のよいように態度を改めるのではなく、その民族を抑圧している政府およびその政府を支持する人々が態度を改めなけれはならないということなのだ。
 この一文を書いている最中に、アメリカの第四十四代目の新大統領が選出されたニュースが流れた。差別された経験と人権擦護の感覚をもった弁護士でありかつ、国際人権法を順守する国際感覚を持った人物なら、「差別」と「不平等」にあふれた沖縄の現状を「人権」の側面から説明すれば、現在のアメリカの政策とそれに追随する日本の政策を変える可能性があるかもしれない。



写真=琉球・アイヌ民族の先住民族としての権利保護勧告が出された国連の人権委員会でのNGOへの説明会=2008年10月、スイス・ジュネーブの国連欧州本部
写真=みやざと・ごさまる 1966年金武町生まれ。琉球弧の先住民族会会員。整体師。

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