2006年1月4日 沖縄タイムス17面
帰属意識の中で葛藤 競合する「沖縄人」と「日本人」
沖縄アイデンティティーとは何か? 沖縄社会のアイデンティティーの特徴とは何か? 去年十一月に沖縄住民を対象に行った調査の結果に基づき、沖縄社会のアイデンティティーの構造とその特徴を吟味してみたい。
まず、沖縄社会のアイデンティティー構造の特徴の一つは地元への愛着度が極めて高いということである。表1は「もしもスポーツの試合で、沖縄チームと日本チームと対戦する場合に、どちらのチームを応援しますか?」という質問で、スポーツ試合の応援態度を通して沖縄住民の地元愛着度の強さを調べようとしたものである。この質問は、政治的・経済的・社会的・文化的に複雑な要素を熟慮せず、素朴な心情を直ちに表す事に効果的という観点から設けたのである。その結果、「沖縄チームを応援する」と答えた人は93.7%と、沖縄出身者のほとんどはこの答えを選んだ。
このような沖縄社会における高い沖縄への帰属・土着意識の生成と維持は、言うまでもなく、沖縄の歴史や文化の独自性が、多くの沖縄住民の頭の中に固く記憶されていることの現れであろう。それと同時に、このような沖縄への感情は嫌悪ではなく、愛着として住民の意識の中に定着していることを意味するのだ。
次に、表2からも容易に察知できるように、アイデンティティーの複合性も沖縄住民の帰属意識のもう一つ重要な特徴なのである。
その複合性は社会的と個体的という二つの側面から検討することが可能だ。沖縄社会は「沖縄人」意識と「日本人」意識という二つが複合している。すなわち、強い「沖縄人」もしくは「ウチナーンチュ」意識が存在していると同時に、「日本人」意識も確実に根付いているということである。
表2の調査結果からも分かるように、自らのアイデンティティーを「沖縄人」と答えた人は四割に達している一方、「日本人」を選択した人も二割を超えていた。つまり、沖縄社会のアイデンティティー構造においては「沖縄人」と「日本人」が競合している現状を示しているのである。また、近代以来沖縄の社会的変遷の奇跡を回顧すれば、「沖縄人」にこだわる人は、自らの帰属意識を「日本人」と区別する形で確立していることがうかがえる。一方で、「日本人」にこだわる人は、自らの「日本人」意識が、必ずしも「沖縄人」を区別の対象にしていないとも言えよう。
複合性のもう一つの側面は、「沖縄人で日本人と思う」人が全回答者の36.5%を占めている数字からも理解できる。つまり、個体的にもそれぞれ「沖縄人」「日本人」が共存し競合しているということである。この「競合」の内実には、二つのアイデンティティーが無事に共存している場合もあれば、自分が「沖縄人」か「日本人」か、と二つの帰属意識の間で葛藤する場合も多いだろう。さらに、「ちゅうちょ」と「はいかい」を含意する「葛藤」が存在する以上、アイデンティティーも流動性をもつことになる。
さて、三つ目の特徴とも言うべきこのアイデンティティーの流動性は、どのようにして、二つの帰属意識が「競合」する現象によって具体的に表されているのだろうか。まず、流動性を社会的に見れば、近代以降の沖縄社会は時には「日本人になろう」「日本に帰ろう」という「日本ナショナリズム」を前面に押し出し、またある時には「沖縄の心」を強調し「日本」という国家に抵抗したりしてきたということだ。
流動性を個体的単位で見れば、通常は「ウチナーンチュ」意識をもったり「沖縄人」にこだわったりしても、いったん海外に出かけると「日本人」と表明したり、あるいは国内にいる「外国人」の前で自らのことを「日本人」を意識したり強調したりするケースが多く発生するだろう。その中に、合理的「複合性」と非合理的「流動性」が含まれる。前者は、「沖縄人」を文化的エスニック・アイデンティティーとし、「日本人」をナショナル・アイデンティティーとする、という合理的に二つを分ける場合を指す。これに対し、より多く存在すると考えられる後者は、海外で「日本人」を強調するメリットと便利性を意識する、いわゆるシチュエーショナルなケースを指す。
このようにして、アイデンティティー研究の二つの争点である「生まれつきか、利益のための凝集か」「変わるか、変わらないか」に照らせば、沖縄社会の帰属意識は「可変的で、利益のために流動化する」という性格を確実に有しているとも言えるだろう。
無論、複合的・流動的な構造をもつ沖縄における複合的アイデンティティーの存在は、琉球併合(「琉球処分」)以降沖縄住民の「ヤマトウンチュ」との絶えまない接触の中で「自」「他」意識が固定化されると同時に、国民教育を含めた日本同化政策や皇民化運動、そしてとりわけ一九七二年復帰後の沖縄社会と日本本土との一体化が進み「日本人」意識も確実に沖縄社会にも根を下ろした結果と言えよう。
いずれにせよ、沖縄アイデンティティーの構造に存在する複合性、競合性と流動性は、同じく「辺境東アジア」として位置付けられる台湾、香港とマカオにも多かれ少なかれ共有されているだろう。
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