サンデー毎日 2010年6月20日号(6月8日発売)

鳩山辞任でも収まらない 沖縄独立の現実味  新首相「永田町お遍路」総力特集

普天間日米合意の見直しを否定した菅直人新首相。またもや切り捨てられた沖縄で、内に秘めた怒りを背景にささやかれるのが「琉球独立論」。沖縄の民意は何処へーー。

 「国益のために130万県民の利益が犠牲になるなら、最終的には独立国として日本と交渉する道を模索するべきです」
 06年の知事選に出馬した「かりゆしクラブ(旧琉球独立党)」の屋良朝助代表(58)は、「小沢との距離」だけが注目される首相交代劇の最中、声を上げた。「独立」とは刺激的だが、本来、琉球は本土とは異なる歴史を持つ別の国だった。
 沖縄には、1879年の明治政府による沖縄県設置(琉球処分)まで約5世紀にわたり独自の文化を育んだ琉球王国があった。安保体制下、沖縄返還(1972年)でも変わらない米軍基地状況や米海兵隊員による少女暴行事件(95年)などを考えれば、独立の主張も、むしろ自然な流れなのかもしれない。
 興味深いデータがある。琉球大の林泉忠准教授(政治学)が07年に行った調査(対象約1200人)では、日本に組み込まれたことを「良かった」との評価が約7割を占めた一方、政府が認めた場合に「独立」を支持する人が約2割に達した。5人に1人という結果の評価は分かれるところだが、同じ調査で自らを日本人ではなく「沖縄人」とする人が4割余いたことを考えれば、決して少ない数字とは言えない。
 08年には、国連人権委が琉球民族、アイヌ民族を日本の先住民と認めて、文化遺産、伝統的な生活様式などの保護促進を日本政府に勧告している。
 では、沖縄の自治・独立を巡る動きは実際どうなっているのか。
 昨年9月、政財界人、有識者で作る沖縄道州制懇話会が、沖縄を単独州として、他地域以上の権限移譲を求める最終提言をまとめた。「琉球自治州の会」共同代表の大村博氏(68)はこう、訴える。
 「基地問題、米軍による犯罪など沖縄差別は一向に解消されない。私自身、沖縄の言葉を取り上げられ、日本人と同化する教育を受けた。まず琉球民族として言葉、文化を取り戻すべきなのです」
 大村氏は、自治州としての琉球州実現を目指す。参考に挙げるのが、スコットランド(イギリス)とオーランド諸島(フィンランド)。スコットランドでは99年、議会が約290年ぶりに再開。外交・防衛、通過政策など全国規模の一貫性が求められる分野以外での独自性が認められた。スウェーデン系住民が大半を占めるオーランド諸島は1921年、国際連盟裁定によりフィンランドへの帰属が決定。同時に強固な自治権を獲得している。
 「琉球は歴史的に中国との関係が深い。中国が今後、超大国化するのは確実。琉球自治州が実現すれば、日中交流の先導役も可能です。東アジアの平和に琉球が果たす役割は大きい。独立に移行するかどうかは、将来の世代が決めればいい」(大村氏)
 詩人で批評家の高良勉さん(61)も、琉球の自治独立運動を進める一人。高良さんは今、憤っている。
 「初の本格的な政権交代だったのに、普天間移設は旧政権時代の案に戻ってしまった。どこが政権をとっても琉球差別は変わらないことが裏付けられた。ヤマト側に沖縄の問題を解決する能力がないことははっきりした。琉球民族は、自分たちの島の運命は自分たちで決めるしかない状況に追い詰められた」

「74%」に見合う発言権拡大の先

 政府への反発と民族自決の実現に向けたエネルギーはすさまじい。もっとも、一足飛びに「独立」は極端だろう。自決権確立の市民団体関係者は指摘する。
 「たとえ独立しても、相当に厳しい現実が予想される。乗り越えるには、琉球民族としての確固たる誇りがあるかどうかが大前提です。県民の多くはそこまで意識していないのではないか。外国の事例と同列には論じられないでしょう。段階を踏んで、徐々に権利拡大を目指すのが現実的」
 琉球大の島袋純教授(政治学)は、こう説く。
 「今の道州制は、自公政権の構造改革路線の提唱者が言い始めた。経済効率を最優先した、要するに自治体のリストラ。そうした方向を否定する形で道州制議論を深める必要があります。いきなり独立ではなく、社会福祉や地方交付税などは国が責任を持つことを前提に、沖縄の主張を中央に通させる方向で地方分権を考えるべきです。知事、県議会には強いリーダーシップと政治力が求められます」
 ところで、前出の調査結果で独立否定の最大の理由に挙げられたのが「経済」。元沖縄国際大教授で農業経済学者の来間泰男氏は、沖縄独立論をこう見る。
 「東京都は国の補助は不要かもしれないが、沖縄はそうはいかない現実があります。基地関連の国の振興策も、近年は“やり過ぎ”の面がありますが、当初は社会基盤整備に役立ったのは確か。依存を減らそうという流れは維持したいが、独立したら経済は相当厳しくなるでしょう」
 菅政権の対応が未知数なだけに、普天間問題を機に新たな進路を模索する動きはやみそうもない。新崎盛暉・沖縄大名誉教授(沖縄近現代史)は指摘する。
 「問題は、沖縄が他の都道府県と同等の扱いを受けていないことにある。“沖縄対本土”の対決構図が戦後65年続き、政府の唱える地域主権が実相を伴わない以上、74%の基地が集中する実態に見合う発言権を求めるのは当然だ。発言権拡大の延長線上で、独立という選択肢を選ぶのか、日本国憲法の枠内の地方自治を選ぶのか、考えればいい」
 新首相だけに向けられている言葉でないことを肝に銘じたい。

本誌・山根浩二

写真:住宅地の上を米軍機が飛ぶ光景がなくならない沖縄。県民の怒りが“独立運動”に火をつけるのか




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